私の勤める介護老人保健施設では生活保護受給者の方も入所しています。
最初から生活保護受給者の方もいれば、退所と同時に生活保護を申請して有料老人ホームに入所する方もいます。
年金だけでは有料老人ホームに入所できない場合、足らない分を生活保護費で補うかたちもあるとご家族にお伝えすると、「生活保護には抵抗がある。できるだけ利用したくない」と言われることがあります。
生活保護制度を利用することに後ろめたさを感じたり、恥ずかしいと考える方もいます。
小説「護られなかった者たちへ」((宝島社文庫)
は生活保護制度がテーマになっています。
単身の80代女性が生活保護の申請が通らず餓死してしまいます。
数年後に元福祉事務所職員が2名、体を拘束された状態で餓死するという殺人事件が起きます。
警察は80代女性宅に出入りしていた男性を犯人と考えます。
結果、犯人はこの男性ではなく現役の生活保護のケースワーカーでした。
当時中学生だった犯人も女性宅に出入りしていました。
疑似家族の関係で一緒に出入りしていた男性を兄のように慕っていました。
犯人は最初から女性の復讐をするために生活保護のケースワーカーになったのではありません。
女性のように生活に苦しむ人々を救いたいという思いから生活保護のケースワーカーになりました。
しかし、現状は昔と全く変化がなく、助けを必要とする人が助けられていない状態のままでした。
書類の不備を理由に申請の受付けすらしてもらえない状態です。
その現状に絶望し、自己で解決しようと考え事件に至りました。
最後のセーフティネットから落ちてしまったことで起きてしまった事件です。
セーフティネットとはサーカスの空中ブランコや綱渡りのとき、万が一の落下に備えて張られている網のことです。
すなわち、生活に困窮しどうしようもない状態に落ちないようにするものです。
生活保護制度は”健康で文化的な最低限度の生活”を保障するための制度であり、生活に困窮している場合に利用できる制度です。
病気で働けない、高齢で働けないなど困窮する理由は様々です。
生活保護制度を利用することで、後ろめたい気持ちになることはないと思います。
生活保護を申請する決意ができたとしても、次は申請方法が難しいという問題があります。
資産調査など複数枚の書類を記入し提出しなければいけません。
頑張って書類を作成しても不備があれば受け付けてもらえずに返される‥すると「もういいか」と諦めてしまいます。
生活保護などの公的扶助は貯金や財産など自助で生活が支えられない場合は、身内などに援助してもらう共助を優先にしています。
自助、共助でも生活が支えられない場合に公助に支えてもらいます。
この小説の女性は福祉事務所から連絡を取っていない弟に頼るように言われました。
弟に頼れない理由を明確に示さなければ生活保護の申請を受け付けられないということです。
そこで福祉事務所はどうしたのか?
ただ追い帰すだけで対応策を示してくれませんでした。
福祉事務所に訪れる人は、生活保護の申請を悩みながら決意し、不安な気持ちを抱えながら助けを求めに来ています。
福祉事務所の職員は親身に対応し、すぐに申請を断るのではなく何とか助ける方法がないかしっかり考えてほしいとこの小説を読んで思いました。
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