小説「ロスト・ケア」(光文社)は高齢化社会の闇を題材としています。
要介護高齢者の大量殺人事件が起き、犯人には死刑判決が下りました。
犯人は自分自身も父親の介護で地獄のような日々を送り、父親の死によって救われました。
犯人は在宅介護業務に従事し身内の介護に苦労する家族の姿を見てきました。
その家族の代わりに要介護高齢者を殺害するロス・トケアを実行していました。
家族を救い、高齢者本人の尊厳を守り、日本社会に問題提起したロスト・ケアは犯人が死刑になることで完結するケアです。
死刑という衝撃的な結末が国民の記憶に残り、日本の福祉制度の改革を後押しする大きな力になります。
犯人を突き止めた検察官の父親も要介護状態になっており介護付き有料老人ホームに入所しています。
有料老人ホームは高額です。
その中でも介護付き有料老人ホームは最も高額で、安いところでも私が住む地域では1ヶ月25万円はかかります。
介護付き有料老人ホームに入所できるような〝安全地帯”にいる人は介護で苦しむ人たちの気持ちを理解することは難しいでしょう。
自分が高齢者の介護を経験することはないのですから。
このような高齢者の格差が起こらないように介護保険制度を利用しやすくし、サービスを充実させる必要があります。
ホームヘルパーなどの介護保険サービスを利用しても家族の負担はそれほど軽減されていないのが現実です。
親の介護で仕事ができなくなり生活苦から生活保護制度を頼っても「若いから働ける」と言われてしまうとそれ以上何も言えなくなります。
生活保護に頼ること自体に抵抗があって相談すらしない人も多いです。
生活保護制度はセーフティネット(安全網)の役割がある制度で最後の手段です。
生活保護制度を利用しなくても介護保険制度を利用することで家族や要介護高齢者を救えるようになることが理想です。
いつまで続くかわからない介護は、小説の中で表現されている通り〝地獄”なのかもしれません。
私は介護老人保健施設(老健)で支援相談員として勤めています。
利用者さんのご家族から「早く死んで欲しいんですよ」と言われたことが数回あります。
どの程度本気で言っているのかわからず、こちらも反応に困ってしまいます。
精神的、身体的にいっぱいいっぱいで心の底から思っていることを笑顔でごまかしながら話していただいているのかもしれません。
介護保険の居宅サービスを利用しても介護負担の軽減には不十分と感じていたら老健などの入所施設を頼ってほしいと思います。
介護は家庭の問題ではなく高齢化社会の日本の問題であると小説を読んで改めて考えさせられました。
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